大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和45年(ネ)690号 判決

昭和四五年(ネ)第六八六号事件控訴人同年(ネ)第六九〇号事件被控訴人

(以下単に原告という)

日産プリンス名古屋販売株式会社

右訴訟代理人

阿久津英三

昭和四五年(ネ)第六八六号事件被控訴人(以下被告という)

五藤正雄

五藤孝明

五藤正一郎

昭和四五年(ネ)第六九〇号事件控訴人(以下被告という)

五藤丈宜

右四名訴訟代理人

平田省三

主文

原告の被告五藤正雄、同五藤孝明、同五藤正一郎に対する本件各控訴、被告五藤丈宜の原告に対する本件控訴を各棄却する。

昭和四五年(ネ)第六八六号事件について生じた控訴費用は原告の、同年(ネ)第六九〇号事件について生じた控訴費用は被告五藤丈宜の各負担とする。

事実

原告は自らの控訴につき「原判決中原告敗訴の部分を取消す。被告五藤正雄、同五藤孝明、同五藤正一郎は原告に対し各金三六万五、三二七円及びこれに対する昭和四四年一二月一一日より完済に至るまで日歩五銭の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも右被告らの負担とする」との判決を求め被告五藤丈宜の控訴を棄却する。控訴費用は同被告の負担とする」との判決を求めた。

被告五藤正雄、同五藤孝明、同五藤正一郎は原告の控訴につき「本件控訴を棄却する。控訴費用は原告の負担とする」との判決を求め、同五藤丈宜は自らの控訴につき「原判決中同被告に関する部分を取消す。原告の同被告に対する請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも原告の負担とする」との判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠関係は次のものを付加するほかは原判決事実摘示のとおりであるからそれをここに引用する。

被告丈宜の主張

被告丈宜の行為は本人たる品助のためにすることを示さず、又同本人のためにする意思なく、同本人になりすまし、勝手に品助の実印を盗捺し、甲一、二、七、八号証を作成したもので文書偽造であつて無権代理行為ではないから同被告が相続により品助の地位を承継しても無権代理人が本人の地位を承継したことにはならず同被告に責任は発生しない。

(証拠)〈省略〉

理由

本件に対する当裁判所の事実認定と判断は原判決掲記の証拠に当審における被告本人五藤丈宜の供述を加えて判断しても原判決の事実認定判断と一致する、即ち原告提出の各証拠書類には亡五藤品助が木村晴三と山内正安のため連帯保証人、物上保証人となつた旨の記載があり原告ないしその前身の日産プリンス熱田販売株式会社は亡品助が十分これを承諾の上これらの契約をしたと思つていたがその実際は亡品助の二男の被告丈宜が品助の承諾を受けず印鑑、権利書を勝手に持出し、品助になりすましてこの契約を結んだことが認められるので、品助にその効力が及ばないという外ないので、これらの書類が真正に作成され契約されたことを前提とする原告の主張は採用できず被告丈宜に責任がないという主張も採用できないので原判決の理由全部を次の付加理由と牴触しない限りここに引用し次の理由を加する。

文書偽造と無権代理の区別は行為者にいわゆる本人のためにする意思があつたかどうかによつて区別せざるを得ないこと被告丈宜主張のとおりであり本件において被告丈宜が亡品助のためにする意思を有しなかつたことは同人の原審並に当審における証言、供述によつて認めらるるところである。然しながら、この区別の実益は本人がその行為を追認して有効な代理行為となすことができるか否か(偽造の場合は無効行為の追認であつて遡及しない)という本人保護の方に意味があり民法一一七条が定めている無権代理人の責任自体は文書偽造であろうと無権代理であろうと代理権存在の証明ができなければその行為者に責任を生ずることは同一と解するのが信義則上当然である。而して行為者が相続によつて本人の地位を承継した時、生ずる責任は両者の地位が混同し民法一一七条の精神をここにあてはめて生ずると考えてよいのであるから被告丈宜の本件は無権代理の場合でないから責任がないという主張は採用できない。

されば原告の本件控訴被告丈宜の本件控訴は何れも理由がないのでこれを棄却し控訴費用の負担につき民訴法八九条九五条を適用して主文のとおり判決する。(奥村義雄 広瀬友信 菊地博)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例